会社員と経営者のゲームを混同するな。「無給で頑張る人」が一番損をする本当の理由

哲学

以前、「経営者目線を持て」という罠についてお話ししました。会社員とビジネス(資本家)は、そもそも全く異なるルールのゲームであるというお話です。

今回は、その「ゲームの違い」に気づかず、間違ったルールのまま懸命にプレーし続けてしまった人たちを待ち受ける、残酷な現実についてお伝えします。

週末の「ちょっとした仕事の準備」、やっていませんか?

日曜日の夕方や夜。「明日の月曜から仕事がスムーズに進むように、少しだけメールのチェックをしておこう」「明日の会議の資料にサッと目を通しておこう」……そんな風に、休日にパソコンを開いてしまうことはありませんか?

真面目で責任感が強い人ほど、こういった「ちょっとした準備」を無意識におこなっています。月曜日の朝のプレッシャーを少しでも減らしたい、周りに迷惑をかけたくないというそのお気持ちは、痛いほどよくわかります。

私の会社員時代にも、こうした同僚や先輩がたくさんいました。彼らは、深夜まで残業をし、帰宅後も自宅で仕事の続きをこなし、週末になれば「これは仕事ではなく、あくまで自分が楽になるための前準備だから」と自らに言い聞かせながら、パソコンに向かっていました。

なぜ、そこまでして無給で働いてしまうのでしょうか。
それは心のどこかで、「この献身的な態度は、いつか必ず長期的に報われるはずだ」と信じているからです。会社への忠誠心を示し、身を粉にして働けば、昇進や給与という形でリターンがあると期待しているのです。

しかし、ここで立ち止まって考えてみてください。その「献身」は、本当にあなたの望む未来に繋がっているのでしょうか?

少し視点を変えて、働く側(労働者)と会社側(資本家・経営者)の間にある「認識のズレ」を整理してみましょう。

項目働く側(あなた)の思い会社側(システム)の現実
週末の事前準備月曜を楽にするための「自己投資」頼んでいないが勝手にやってくれる「無料の労働力」
サービス残業会社への忠誠心と責任感の「アピール」業績を圧迫せずに業務が回る「都合の良い仕組み」
長期的な見返り将来、必ず報われてリターンがある「はず」雇用契約書に書かれている以上の見返りを確約する「義務はない」

実は、このズレこそが、会社員が陥りやすい最大の罠です。

そもそも法律(労働基準法)の観点から見れば、使用者の指揮命令下に置かれている時間はすべて「労働時間」として扱われます(参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。
しかし、「自発的な前準備」と自分に言い聞かせてしまっている以上、それは単なる「無給の奉仕」として消費されてしまうのが現実です。

「会社員」と「経営者(ビジネス)」は、根本的にルールが異なる別々のゲームです。

業績が右肩上がりの時代であれば、この2つのゲームを混同していても、結果的に「終身雇用」や「年功序列」という形で報われることもありました。
しかし、時代は変わりました。会社の寿命が個人の働く期間よりも短くなった現代において、「無給の献身」というアプローチは、あまりにもリスクが高すぎるのです。

経営危機に陥った「法人」という生き物の冷酷さ

「会社」という存在に対して、あなたはどのようなイメージを持っていますか?
毎日のように顔を合わせる同僚や上司がいて、苦楽を共にする場所。もしかすると、一つの「家族」や「運命共同体」のように感じている方もいらっしゃるかもしれません。

真面目に働く人ほど、会社に対して愛着や仲間意識を持つものです。そう感じてしまうのは当然ですし、人間として非常に自然な感情です。

しかし、ここで少しドライな現実(ルール)に目を向けてみましょう。

法律上、会社は「法人(ほうじん)」と呼ばれます。つまり、法律によって擬似的に「人」としての人格を与えられた存在です(参考:e-Gov法令検索 民法第33条 法人の成立等)。

この「法人」という存在は、業績が右肩上がりで余裕がある「平時」には、非常に優しく、人間味あふれる顔を見せてくれます。福利厚生を充実させ、「社員は家族だ」「みんなで一緒に成長しよう」と温かい言葉をかけてくれるでしょう。

問題は、会社の業績が激しく傾き、有事(経営危機)に陥った時です。

法人は、自らの「命(=会社の存続)」が危うくなると、途端に冷酷な本性を現します。
人間を含めた生き物が、遭難して極限状態に陥った時、生き残るためになりふり構っていられなくなるのと同じです。法人は、自身の心臓部(会社そのもの)を生かすために、トカゲが尻尾を切り落とすように、手足(従業員)を切り離す決断を冷徹に下します。

これが、「リストラ(リストラクチャリング=事業の再構築)」の本当の姿です。

私自身、激しい業績の浮き沈みがある業界で会社員時代を過ごす中で、昨日まで「君たちの頑張りが会社を支えている」と称賛していた組織が、経営が傾いた瞬間に、手のひらを返したように冷酷な生存マシーンへと変貌する様を目の当たりにしてきました。

そこには、「今までこれだけサービス残業をして、週末も犠牲にして尽くしてくれたから」という温情が入る余地は、残念ながら1ミリもありません。法人は、生き残るための「数字」と「手段」しか見ていないのです。

「自分はこれだけ会社に身を捧げてきたのだから、いざという時は守ってもらえるはずだ」。
もし、あなたが心のどこかでそう信じているなら、それは「会社員のゲーム」の中に「経営者(資本家)のゲーム」の幻想を持ち込んでしまっている状態と言わざるを得ません。

では、いざ会社が「手足を切り落とす」決断をした時、一体「誰」から真っ先にターゲットにされるのでしょうか?
実はここにも、身の毛がよだつような「法人の残酷な論理」が働いているのです。

リストラされるのは決まって「会社に尽くした人」から

会社が生き残りをかけた非常事態に陥ったとき、真っ先に手放される(リストラの対象になる)のは誰でしょうか。

普通に考えれば、「仕事のパフォーマンスが低い人」や「会社に反抗的で扱いにくい人」から切られるはずだ、と思いますよね。しかし、現実のオフィスで起きていることは、それとは全く異なる、とても残酷なものです。

実際に真っ先に肩を叩かれるのは、皮肉なことに「これまで文句一つ言わず、無給の残業もいとわず、会社に尽くしてきた真面目な人たち」なのです。

なぜ、そんな不条理がまかり通るのでしょうか。そこには、日本の労働環境における「リストラの構造的な真実」が隠されています。

切るのに手間がかかる「従順でない人」は後回しにされる

日本の労働法では、会社が一方的に社員をクビにする(解雇する)ことは非常に厳しく制限されています。いわゆる「整理解雇の4要件」という高いハードルがあり、業績悪化を理由にした解雇はそう簡単には認められません。(参考:厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」

そのため、会社がリストラを行う際の基本戦術は、解雇ではなく「退職勧奨(社員に自主的な退職を促し、同意を得ること)」となります。
つまり、会社からすればリストラとは「いかにトラブルなく、スムーズに退職同意書にサインさせるか」という業務なのです。

この「会社側の視点」に立つと、誰をターゲットにすべきかが明確に見えてきます。

社員のタイプ会社からの見え方リストラの標的になりやすさ
会社に尽くす、従順な人上司の指示に素直。スムーズにサインしてくれる可能性が高い。真っ先に狙われる
会社にドライ、自己主張が強い人労働法を盾にし、揉めるリスク大。退職まで時間と労力がかかる。後回しにされる

人事や経営陣には「いつまでに〇〇人減らす」というノルマとタイムリミットがあります。
その極限状態において、わざわざ抵抗が激しく、揉め事が長期化しそうな「従順でない人」に時間をかけている余裕はありません。結果として、最も少ない労力で目標を達成できる「会社に従順な人」が、一番効率の良いターゲットとして選ばれてしまうのです。

面談という密室で、会社はあなたの「優しさ」を利用する

では、実際にリストラのターゲットに選ばれた時、何が起きるのでしょうか。
それは、会議室で行われる「退職勧奨面談」という密室の劇です。

真面目で責任感の強いあなたは、日頃から「会社のために」という思考が染み付いています。そこへ、上司や人事担当者が神妙な面持ちでこう語りかけます。

「今の会社の厳しい状況は、君もよく分かっているよね?」
「本当に心苦しいが、君に身を引いてもらうことで、会社も他の社員も助かるんだ」
「君ほどの真面目で優秀な人なら、外の世界でも絶対にやっていける」

日頃からドライに働いている人なら「それは会社側の都合ですよね。私は辞めません」と一蹴できるでしょう。しかし、無給で尽くすほど会社に情を持っている人は、この密室の圧力と、会社からの「最後のお願い」に耐えられません。

「自分が身を引けば、会社が助かるなら……」
「お世話になった上司がここまで頭を下げているのだから……」

そうやって、あなたの「優しさ」や「責任感」が、会社にとって都合よく利用されてしまうのです。長年、自分の時間を犠牲にして尽くしてきた会社から、最後はその従順さゆえに、最も安上がりな形で切り捨てられてしまう。これほど悲しい結末はありません。

「会社員のゲーム」において、「優しさ」や「滅私奉公」を持ち込むことは、自らの首を絞める行為に他なりません。

会社の雰囲気に流されず「別ゲー」であることを自覚する

前章までで、会社(法人)がいざという時にいかに冷酷に振る舞うか、そして皮肉なことに「会社に尽くした人」から真っ先に切り捨てられるという残酷な現実を見てきました。

とはいえ、「明日からいきなり会社とドライに付き合え」と言われても、すぐには難しいかもしれません。日本の職場には特有の「空気」があります。「みんなが残業しているのに、自分だけ定時で帰るのは気まずい」「先輩が週末も働いているのだから、自分もやらないと評価が下がるのではないか」。そんな強烈な同調圧力の中で、自分だけが違う振る舞いをするのは、とても勇気のいることです。

しかし、だからこそ、ここで明確に認識をアップデートする必要があります。
会社員(労働者)と経営者(資本家)は、そもそも「全く違うゲーム」をプレーしているという事実です。

職場の雰囲気に流されてしまう人の多くは、無意識のうちにこの2つのゲームを混同してしまっています。ここで、それぞれの「ゲームのルール」を明確に整理してみましょう。

項目会社員(労働者)のゲーム経営者・資本家のゲーム
目的労働力を提供し、安定した給与を得る資本や仕組みに投資し、企業価値(利益)の最大化を図る
ルールの本質雇用契約に基づく「時間の切り売り」リスクを取ってリターンを得る「投資と回収」
会社への献身の行方会社の業績が上がっても、見返り(給与増)は微々たるもの業績が上がれば、株主配当や役員報酬としてダイレクトに還元される

この表を見ると、会社員が「無給の事前準備」や「サービス残業」をしてまで会社に尽くすことが、いかに割に合わない行動であるかが分かるはずです。

あなたが週末に身を削って会社の業績アップに貢献したとしても、その果実(利益)の大部分を受け取るのは、あなたではなく「経営者」であり「株主(資本家)」です。
つまり、無給で会社のために頑張るということは、「リスクと労力だけを背負わされ、リターンのない経営者のゲームに参加させられている」という異常な状態なのです。

冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、会社員とは「雇用契約書に書かれた条件の範囲内で、指定された業務を遂行するポジション」でしかないのです。それ以上でも、それ以下でもありません。

職場の「頑張っている雰囲気」や「謎の罪悪感」に流されないでください。
あなたは、あなたの人生を守るために、割り切って「会社員のゲーム(労働契約)」に徹するべきなのです。

【実践編】「会社員のゲーム」に徹し、自分の資産を築く方法

ここまでの話を読んで、「会社に過度に尽くすのはやめよう」「会社員と経営者は別のゲームなのだから、しっかり割り切ろう」とご理解いただけたかと思います。

では、明日から具体的にどう行動すればよいのでしょうか?
ここからは、感情論ではなく、私たちが自身の人生と資産を守るための具体的なアクションプラン(2つのステップ)を解説します。

ステップ1:就業時間外の「会社のための時間」をゼロにする

最初のステップは、行動の断捨離です。具体的には、プライベートや就業時間外に発生している「会社のための無給の労働・準備」を、今日からすべてゼロにしてください。

  • 休日に「月曜の準備」としてパソコンを開くのをやめる。
  • 定時を過ぎた後に、ダラダラと意味のないサービス残業をしない。
  • 自宅に仕事を持ち帰ったり、スマホで業務連絡を過剰に気にしたりするのを断つ。

「そんなことをしたら、評価が下がるのではないか」「周りに迷惑がかかるのではないか」と不安になるかもしれません。
しかし、あなたが週末を犠牲にして作り上げた「ちょっとした準備」や「サービス残業」は、会社(法人)の経営が傾いたとき、あなたを守ってくれません。むしろその真面目さや従順さこそが、リストラの標的という最悪の結果を招きます。

会社に対する「無償の献身」は、あなたの人生のエネルギーを削るだけで、1円の資産にもなりません。まずは、「定時が来たら、会社員としてのゲームのスイッチをスパッと切る」。この境界線を引くことが、自分の身を守る最初の防衛策です。

ステップ2:奪い返した時間で「自分の盤面」を育てる

ステップ1で、これまで会社に奪われていた時間とエネルギーを取り戻しました。
ここで生まれた余白の時間を、ただの娯楽や休息だけで終わらせてしまうのはもったいありません。その時間こそが、「自分自身の資本家のゲーム」を攻略するための原資になります。

会社という他人のゲーム盤からリソースを引き揚げ、「自分の資産を築くための盤面」に全振りするのです。

投資の対象具体的なアクションの例
金融資本(資産運用)S&P500やオルカンへの積立投資(NISA)、J-REITや高配当株などを通じたキャッシュフローの獲得
人的資本(自己投資)将来の独立やマイクロ法人設立を見据え、簿記3級などの実用的な資格やビジネススキルを学ぶ
事業資本(自分のビジネス)ブログ運営などのメディア事業、会社に依存せず自分で稼ぐ仕組み(キャッシュポイント)の確立

※マイクロ法人を運営し、ご自身のビジネスを管理するだけであれば、高度な専門知識がなくても簿記3級レベルの知識があれば十分に役立ちます。

会社員という働き方は、どれだけ頑張っても「時間の切り売り」であり、収入には構造的な上限があります。しかし、奪い返した時間を使って「金融資本」や「事業資本」を育てていけば、収入の柱は少しずつ自分のコントロール下に移っていきます。

おわりに:自分の人生の舵を取り戻そう

「会社員と経営者は、全く異なるゲームである」
この前提に気づくかどうかで、数年後、数十年後の人生の景色は決定的に変わってしまいます。

だからこそ、会社員としてのゲームにはドライに徹し、契約の範囲内でプロとして成果を出す。そして、そこで守り抜いた自分の時間とエネルギーを、自分の資産や未来を築くために使う。

今日から、会社の外にある「あなた自身のゲーム盤」に目を向け、自分の人生の舵をしっかりと握り直していきましょう。

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