社会のニュースを見ていると、ふと「なぜこんな理不尽なことが起きるのだろう?」と首をかしげたくなる瞬間はありませんか?

記憶に新しい米不足や新米・古米の価格逆転現象、なかなか収まらない物価高、そして私たちの雇用を揺るがすかもしれない急速なAIの開発。
こうした問題が起きるたび、私たちは「企業はなぜもっと消費者のことを考えないのか」「政府はなぜ早く手を打ってくれないのか」と不満や不安を抱きがちです。
ですが、社会の構造を少し深く掘り下げてみると、ある冷徹な事に気づきます。彼らは決して「悪意」で私たちを困らせようとしているわけではありません。むしろ、それぞれの立場における「善意」や「正義」に従って行動した結果として、社会全体に理不尽な歪みが生まれているのです。

これからの不安定で変化の激しい時代を生き抜くために、私たちがまず知っておくべき「組織の心理」と「構造の裏側」について考えてみましょう。
なぜ「不条理」は繰り返されるのか――「善意」の向かう先

ヨーロッパには「地獄への道は善意で舗装されている」という有名な格言があります。一見すると良いことのように見える行動や意図が、巡り巡って最悪の結末を招いてしまうという意味です。
この言葉の真意は、現代のビジネスや経済活動で起きているさまざまな摩擦にも、そのまま当てはまります。
米卸業者の動向は「悪意」ではなく「自組織を守る善意」
例えば、大きな話題となった米不足や価格高騰の局面を思い出してみてください。
当時は「米卸業者が流通市場に出し惜しみしているから価格が上がっているのではないか」といった批判の声も多く聞かれました。実際に米卸大手である木徳神糧(2700)の四半期決算データなどを見ても、市場の大きな波に翻弄され、業績が激しく乱高下している様子が分かります。
一般消費者からすれば「困っている人が大勢いるのに、なぜ安く速やかに市場へ米を出してくれないのか」と不満に思うのは当然かもしれません。しかし、米卸業者も慈善事業を行っているわけではありません。
彼らにとっての最優先事項は、自社の利益を守り、従業員の雇用を維持し、株主に対する責任を果たすことです。つまり、企業や従業員にとっての「善意」の向き先は、不特定多数の消費者(顧客)ではなく、自分たちが所属する「会社や身内」に向いているのです。
【図解:社会の期待と組織の動機のギャップ】
【消費者が期待する方向】 企業・卸業者 ───────────(安価・安定供給)───────────> 一般消費者【実際の善意の向き先】
企業・従業員 ───(利益確保・雇用維持・保身)───> 自社・株主・身内

自組織を守るために最善を尽くす。これは組織人としてごく自然で正当な行動であり、彼らなりの「正義」です。しかし、その内向きな正義が積み重なった結果として、外側にいる消費者には「不条理な米不足や高騰」という形で跳ね返ってきます。
会社員時代に感じた「目的と手段の逸脱」
私もかつて企業に勤める会社員として組織の中にいた人間ですが、この「内向きの正義」の感覚には非常に身に覚えがあります。
会社人として仕事をしていると、社内での評価を上げるため、あるいは上司や周囲との波風を立てないために、本来はやりたくもない残業をしてみたり、社内政治を優先した立ち回りをしてしまったりした経験がありました。
冷静に振り返れば、これは「顧客や社会に本質的な価値を提供する」という本来の仕事の目的から大きく逸脱した行為です。しかし、組織の渦中にいると、「社内での保身や評価を守ること」が自分にとっての最優先の正義になってしまいます。
米卸業者をはじめとするさまざまな企業の行動も、構造としてはこれと全く同じです。組織人として自社や自分を守るために最善を尽くす。それは彼らにとってごく自然な「善意」であり行動原理です。ただ、その正義の向き先が「顧客」ではなく「身内」に向いているからこそ、私たちは日常の中で強烈な理不尽さを感じることになります。
「民間の企業が身内を守るために動くのは理解できた。でも、それなら最終的に国や政府が介入して私たちを助けてくれればいいのではないか?」
そう考える方もいるかもしれません。しかし、社会の構造変化は、その「最終的な救い手」の存在すら危うくさせています。
コントロール権の変遷――政府から巨大企業、そして「誰にも制御できないシステム」へ

「最終的には、国や政府が手を差し伸べて守ってくれるはずだ」
そう期待したくなる気持ちもよく分かります。実際、政府による備蓄米の放出といった市場調整が行われ、一定の緩和策が講じられるケースもあります。
ですが、こうした「いざとなったら政府が全体をうまく調整し、国民を救ってくれる」という前提そのものが、いま静かに崩れ去ろうとしています。
GAFAMとAI開発に見る「誰も止められない競争」
かつて社会のルール決めや全体のコントロール権は、主に国家や政府が強力に握っていました。しかし現代において、ITインフラをはじめとする社会基盤の実質的な主導権を握っているのは民間企業、特にGAFAMをはじめとする米国の巨大テック企業です。
わかりやすい例が、急速に進化を続けるAI(人工知能)開発をめぐる状況です。
現在、米国では「自分たちの就職先が奪われるのではないか」と若者を中心にAI開発への反発が強まっています。さらに深刻なのは、AI開発の第一線にいる研究者やエンジニアたち自身すら、「AIが制御不能になる危険性」を公に懸念している点です。
社会全体や人間側の視点に立てば、一度立ち止まって安全性を検証するのが「善意」であり「正義」に見えるかもしれません。しかし、現実にはAI開発のアクセルが緩むことはありません。
なぜなら、自社が自制して開発を止めれば、競合国やライバル企業に主導権を奪われ、自社の優位性や生存そのものが脅かされるからです。
ここにあるのは、「政府から巨大企業へコントロール権が移った」という単純な変化だけではありません。その巨大企業すらも、市場の構造と生存競争のルールに支配され、自らの暴走を止められなくなっているという事実です。
【図解:コントロール権の変遷と喪失】
【過去】国家・政府(法規制や市場調整で全体をコントロール) ↓ コントロール権の移行 【現在】巨大テック企業(インフラを掌握し、社会に強い影響力を持つ) ↓ 競争構造の激化 【未来】誰にも制御できないシステム(生存競争・市場のルールから暴走を止められない)

政府が国民すべてを救いきれない時代の到来
これまでは「政府」という絶対的なコントロール存在が、企業や市場の行き過ぎを抑え込み、最終的なセーフティネットとして機能してくれていました。
しかし、グローバル化とテクノロジーの急速な進化により社会システムが複雑化しすぎた結果、一国の政府だけでは全体をコントロールしきれない事態が増えています。
一時的な市場調整などは機能したとしても、社会全体の大きなうねりの中で「すべての困りごとから政府が助けてくれる」と過度に依存するのは、非常に危険な考え方になりつつあります。
国家も企業も全体を制御しきれない「誰もコントロールできないカオスな時代」へと、私たちは着実に突入しているのです。
では、このように個人の力では到底抗えない構造の中で、私たちはどのように思考し、自分や家族を守っていけばいいのでしょうか?

混沌とした時代を個人として生き抜くための3つの思考法
国も、大企業も、システムそのものですら自分たちを救いきれない。そう聞くと暗い気持ちになるかもしれません。
ですが、この社会構造をあらかじめ正しく理解しておけば、無駄に期待して裏切られたり、社会の急変に狼狽したりすることはなくなります。
ここからは、混沌とした時代において私たちが持っておくべき「3つの思考法」について考えていきましょう。
① 相手の「インセンティブ(利害構造)」を先を見る

誰かの発言や企業の動向を見るときは、「善悪」や「感情」で判断するのをやめましょう。真っ先に見るべきは、「この組織や個人は、どう行動すれば一番得をする(保身できる)のか?」というインセンティブの構造です。
相手は常に「身内への善意(=自社の損益や社内評価)」で動いていると冷徹に理解できれば、「なぜそんなひどいことをするんだ」と感情的に怒ったり、裏切られたとショックを受けたりすることはなくなります。相手の利害構造を先に見抜くことこそが、自分を守る第一歩になります。
② 「お仕着せの救済」を前提に人生を設計しない

「いざとなったら国が手厚く手当してくれる」「会社が定年まで面倒を見てくれる」という前提でライフプランを組むのは、極めて危険な時代になっています。
もちろん、活用できる公的制度や会社の福利厚生はしっかり利用すべきです。しかし、政府も企業も余裕がなくなれば、自らの存続のために真っ先に手厚い救済を削らざるを得なくなります。「お仕着せの救済は、あったらラッキー」程度に捉え、最初から誰かのサポートを当てにしない前提で人生を設計することが大切です。
③ 自分のコントロール範囲を広げ、自立した選択肢を持つ

社会や他者の動きを直接コントロールすることはできません。しかし、「自分自身の行動」や「資産の置き場」は、自分の手で完全にコントロールできます。
【図解:コントロール範囲の意識シフト】
【変えられないもの(他者軸)】
・他人の感情や企業の行動
・政府の政策や社会の急変
・自力で制御できない巨大システム
↓(ここに期待や不満を注ぐのをやめる)【コントロールできるもの(自分軸)】
・自分の行動・スキルの獲得
・収入源や資産の分散・配置
・環境や働き方の選択肢(自立)
私自身、かつて会社という組織で働いていた頃は、事業全体のほんの一部しか担当できず、物物を大きく俯瞰して見ることができませんでした。そのため、自分の仕事や人生に対する「確かな手触り感」を持てずにいたのです。
だからこそ私は、他者に自分の人生のコントロール権を委ねるのをやめました。個人の資産形成に真剣に向き合い、会社を退職してアーリーリタイアをし、資産管理会社としてのマイクロ法人を設立したのも、まさに「自分の手でコントロールできる範囲を広げ、何が起きても生きていける自立した選択肢を持つため」でした。
特定の組織や単一の収入源に過度に依存せず、自分の足で立てる準備をしておくこと。これこそが、誰も守ってくれない時代における最強の防衛策になります。
まとめ:誰かの善意をアテにせず、自分の舵は自分で握る
「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉が示す通り、私たちが日常で感じる理不尽さや世の中の歪みの多くは、誰かの悪意ではなく「身内や組織への内向きな善意」から生まれています。
企業は自社の損益や保身のために働き、政府もまた社会システム全体を完璧にコントロールして国民一人ひとりを救いきることはできません。この構造を理解しないまま「誰かが親切に助けてくれるはずだ」「国や会社がなんとかしてくれるだろう」という淡い期待を抱き続けるのは、非常に危険です。
テクノロジーを武器にして「カモ」にされるのを防ぐ

「誰かの善意をアテにしない」ということは、決して人間不信になれという意味ではありません。他者のインセンティブ(利害関係)を冷静に見極め、自分自身の判断軸を持つということです。
身近な例で考えてみましょう。例えば、私の父のような世代がスマートフォンの料金プランを見直そうとするとき、知識がないまま携帯ショップに行き、そのまま従業員に「おすすめのプラン」を聞いてしまうことがあります。
しかし、ショップの従業員もまた組織の人間であり、「自社が売りたいプランや特定のオプション(お店側のインセンティブ)」を提案せざるを得ない構造の中にいます。親切丁寧に対応してくれても、結果として知識のない顧客が損をしてしまう――まさに「カモがネギを背負っていく」ような状態になりかねません。
ですが、ここで思考を切り替えれば対策はいくらでもあります。
周囲の詳しい人に客観的な意見を聞くのも一つですし、それが難しい環境であっても、今の時代なら生成AIを活用するという非常に強力な選択肢があります。
AIに自分の毎月のデータ使用量や通話頻度、希望条件をそのまま入力し、「自分に最適なプランを客観的に比較して」と頼めば、特定企業の営業ノルマや利害にとらわれない、フラットで親身な回答を提示してくれます。
他人の「親切」や「専門家の意見」を鵜呑みにせず、テクノロジーなどの利便性の高い手段を自分で使いこなすこと。これだけでも、組織の都合に振り回されて搾取されるリスクを劇的に減らすことができます。
自分の人生の舵は、自分の手で握り直そう

これからの時代、社会の混迷や変化のスピードはさらに増していくはずです。だからこそ、以下の3つの姿勢を強く意識してみてください。
- 相手のインセンティブ(損益・保身)を冷徹に見抜くこと
- 誰かのお仕着せの救済をアテにせず、自立した判断軸を持つこと
- 自分の手でコントロールできる範囲(行動・資産・選択肢)を広げること
誰かに自分の人生や判断を委ねるのをやめ、自分で情報を選び、自分で考え、自分の手で舵を握り直すこと。
それこそが、混沌とした時代においても他人に振り回されず、自分と大切な家族を守りながら軽やかに生き抜いていくための真の強さなのだと思います。


コメント