なぜ会社は毎年「前期超え」を求めてくるのか?会社員と資本家で違う「利益」の捉え方

はじめに:会社員時代の素朴な疑問「赤字じゃなければトントンで十分」ではないのか?

こんにちは。マイクロ法人を設立し、資産管理を行いながら日々投資や財務の勉強を続けている「メガネおじさん」です。

会社員として現場で働いていると、毎年のようにこんな言葉が上から降ってきませんか?

「今期は前年比105%の売上を目指すぞ!」
「前期超えの利益を出すのが絶対条件だ」
「現状維持は退歩と同じだ」

毎期ごとに高くなるハードルを目にして、「なぜ会社は、そこまでして毎年『前期超え』を目指さなきゃいけないんだろう?」と徒労感を感じてしまうことってありますよね。

私自身、就職氷河期を経て社会人になり、組織に勤めていた頃、ずっと同じ疑問とモヤモヤを抱えていました。

会社員になったばかりの私が感じていた「素朴な違和感」

会社員になりたての頃の私は、素直にこう思っていました。

「赤字を出さずにトントン(損益トントン)で会社が回っているなら、それで十分じゃないか?」

経営がトントンであれば、倒産することはありません。一緒に働く仲間の雇用は守られ、毎月のお給料もちゃんと支払われます。社会にサービスや商品を提供し続けられているのだから、それだけで立派な役割を果たしているはずです。

それなのに、なぜ現場は毎年毎年、終わりなき「成長圧力」に追われなければならないのでしょうか。まずは、会社員の立場から見た「理想の会社」と「現実の要望」を整理してみましょう。

項目会社員の視点(現場の感覚)会社(経営陣)からの要求
事業のゴール倒産せず、雇用と給料が守られること毎年、過去最高の売上・利益を更新すること
利益の認識赤字でなければ(トントンなら)OK前期以上の利益を出さなければNG
現場の想い安定して長く働き続けたい常に新しい目標に挑み、成長し続けたい

当時の私には、会社が求める「毎年拡大し続けなければならない理由」が、単なる「上層部の欲張りのせい」にしか見えませんでした。

「従業員の正解」と「資本家の正解」はまったく違う

しかし、後になって株式投資や財務の仕組み(B/SやP/L)を徹底的に勉強するようになり、あの頃の自分の考えに大きな勘違いがあったことに気づかされました。

結論から言うと、「赤字じゃなければトントンで十分」というのは、従業員の視点としては100点満点の正解ですが、資本家(株主)の視点では完全なNG(失格)だったのです。

【従業員の見え方】
利益トントン = 雇用と給料が守られているから「合格」

【資本家(株主)の見え方】
利益トントン = 投資したお金に対して利益を生んでいないから「失格(投資対象外)」

会社員として現場にいると、どうしても「給料をもらう労働者の視点」だけで世界を見てしまいがちです。しかし、会社という仕組みを動かしているのは、実はお金を出している「資本家(株主)」たちです。


資本家の視点:「トントン」の会社が投資対象として失格になる理由

従業員にとって優しくてありがたい「利益トントン」の会社。しかし、視点を「資本家(投資家)」に変えた途端、評価は真逆にひっくり返ります。
投資家にとって、利益がトントンの会社は「頑張っている会社」ではなく、「大事なお金を無駄に寝かせているだけの失格企業」とみなされてしまうのです。

理由①:「ノーリスクの預金」よりリターンが低いから

投資家は、自分の大切なお金を「増やすため」にリスクを冒して企業に投じています。もし、投資した会社が「利益トントン(=株式の価値が増えない)」だった場合、投資家はどう感じるでしょうか。

「減るリスクを冒して株式に投資したのに、1円も増えないの? それならリスクがほぼゼロの国債や銀行預金に預けておいた方がマシだった…」

このように考えるのが、投資家としてごく自然な感情です。経済学では、これを「機会費用(他を選ぶことで得られたはずの利益の損失)」と呼びます。

投資先リスク(元本割れ危険度)期待できるリターン
銀行預金・国債ほぼゼロ低い(確実に増える)
オルカン等の投信中程度年5%〜7%程度(長期分散)
損益トントンの会社高い(倒産・下落リスク)ゼロ(利益が出ない)

お金を減らすリスクを投資家に負わせているにもかかわらず、リターンがゼロ(トントン)ということは、投資家目線では「投資する価値がない(=失格)」ということになってしまうのです。

理由②:経営者が「資本コスト」を無視しているから

ここで重要になるのが、経営における「資本コスト」という考え方です。シンプルに言えば「投資家から集めたお金にかかるレンタル料(=株主の期待リターン)」のことです。

会社が銀行からお金を借りたら、当然「金利(利息)」を払いますよね。同じように、株主から出資してもらったお金にも、見えない利息=「資本コスト」が発生しています。
企業の経営者がこの「資本コスト」を意識せず、単に「今年も赤字にならなくて良かった」と満足している状態は、銀行に利息を払わずに「借りた元本だけ返せばいいでしょ?」と居直っているのと同じなのです。


なぜ株主は社債以上の「複利リターン」を求めるのか?

「でも、銀行の金利なんて数%でしょ? なぜ会社はあんなに高い成長率を目標にするの?」と思うかもしれません。
実は、株主は「社債(銀行からの借入など)」のような決まった低い金利ではなく、もっと高いリターン、しかも「複利での成長」を求めてきます。

倒産したとき「一番最後に回される」リスク(リスクプレミアム)

会社が倒産したとき、銀行などの債権者は優先的にお金を返してもらえます。しかし、株主には元本保証がなく、最後にお金が残っていなければ投資額はゼロになります。
だからこそ株主は、「高いリスクを背負っているのだから、社債の利回りを明確に超えるリターン(リスクプレミアム)を出して当然だ」と要求します。

配当されなかった利益は「勝手に再投資されている」

もうひとつの決定的な理由が、「内部留保(利益剰余金)」の存在です。

会社が稼いだ純利益のうち、配当金として株主に支払われなかった残りは、貸借対照表(B/S)の「純資産(自己資本)」にどんどん積み上がっていきます。株主から見れば、こういう状態です。

「本当は配当金として受け取れたはずの利益を、会社の中に預けたままにしている。会社はそのお金を使って再投資しているのだから、その預けたお金(内部留保)に対しても利息(リターン)を生み出してくれないとおかしい

例えば、元手100万円で10万円の利益(利回り10%)を出したとします。この10万円を会社に残した場合、翌年の元手は「110万円」になります。
翌年も同じ「10万円の利益」だと、利回りは約9.1%に下がってしまいます。利回り10%を維持するには、翌年は11万円(前期超え)の利益を出さなければならないのです。

過去の利益がどのようにB/Sに積み上がり、企業の資本に影響を与えるかについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
NISAの次は個別株?「増資で株価が下がる」本当の理由と投資家のアクションプラン


ROEが落ちる恐怖:経営者のクビをかけた資本コストとの戦い

この資本家の要求が、株式投資において最も重要視される指標 「ROE(自己資本利益率)」 を通じて、経営者へのプレッシャーに変わります。

ROE = 当期純利益(分子) ÷ 自己資本(分母)

利益を会社に残せば残すほど、分母である「自己資本」は勝手に毎年膨らんでいきます。つまり、分子(利益)を毎年増やし続けない限り、ROEという成績表の点数は勝手に落ちていくという逃げ場のない構造になっています。

「経営者の恐怖」が現場の「理不尽なノルマ」に化ける

投資家にとって「ROEが資本コストを下回る」ことは、「預けた資産の価値を削り取られている(価値破壊)」のと同じです。もし株価がずるずると下落していったら、社長(雇われ経営者)はどうなるでしょうか?
株主総会で追及され、最悪の場合は「解任(クビ)」というリアルな恐怖と隣り合わせになります。(参考:東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」

経営者の頭の中では、常に以下の連鎖が起きています。

  1. 株主にクビを切られたくない!
  2. そのためには、ROEを維持向上させる「前期を超える純利益」が絶対必要だ!
  3. 役員・事業部長へ「前年比105%の目標」を命令
  4. 現場の従業員へ「今期も気合いで前期超えだ!」とノルマが降ってくる

現場に降りてくる売上目標は、上層部の単なる欲張りではなく、「資本主義の構造上、経営者が株主から背負わされた宿命」が、従業員に転嫁されたものだったのです。


まとめ:会社の理不尽なプレッシャーの正体を知り、自らも「資本家側」に立つ

会社が成長を求めてくるのは、「資本主義というゲームのルール上、避けられない現象」です。これを知っておくだけで、会社のプレッシャーを過剰に個人の責任として抱え込まず、適度な距離感を持って「客観視」できるようになりますメンタルは劇的に楽になるはずです。

労働者として消耗しないためのアクションプラン

会社のゲームのルールを変えることはできませんが、自分のゲームの参加方法は自分で選べます。「雇われる労働者」としてだけ参加していると、永遠に成長圧力のシワ寄せを受け続ける側になってしまいます。

だからこそ、私は以下のステップをおすすめします。

  • 割り切って働く:会社の目標は構造上のものだと理解し、真面目になりすぎてメンタルを壊さない。
  • 新NISAや個別株で「株主」になる:毎月少額からでも企業に出資し、資本家として「成長の恩恵」を受け取る側に回る。
  • 副業で自分の事業を持つ:会社給与以外の収入の柱を作り、1つの組織に生殺与奪の権を握らせない。

「会社だけに自分の人生を依存させることこそが、最大のリスク」です。会社員としての安定したキャッシュフローを土台にしながら、投資を通じて「小さく資本家デビュー」を果たしましょう。

会社のルールに翻弄されるのではなく、自らの頭で考え、自分の手で人生の主導権を取り戻していきましょう!

※労働者と資本家で異なるお金の計算式については、こちらの記事も併せてお読みください。
「経営者目線を持て」の罠。労働者と資本家で違う「お金の計算式」と賢い働き方

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