幸せを追い求めるのはやめよう。「不幸を避ける」だけで人生の難易度は劇的に下がる

哲学

はじめに:なぜ「幸せになる」という目標は漠然としているのか?

毎日、仕事や家事、育児など、本当にお疲れ様です。「もっと幸せになりたい」「心穏やかに生きたい」と願いながら、日々それぞれの場所でがんばっていらっしゃる方が多いと思います。

でも、いざ「あなたにとって幸せとは何ですか?」と正面から問われると、少し言葉に詰まってしまいませんか?

それもそのはずで、「幸せ」という感情は非常に主観的で、輪郭がとてもぼやけているものだからです。

幸せを感じる瞬間は、本当に人それぞれです。週末に家族と笑い合っている時間、サウナでじっくり汗を流して心身を整えている瞬間、あるいは静かな朝にのんびりと散歩をしている時。これらは間違いなく満ち足りた幸せな時間ですが、同じ人であっても、その日の気分や年齢、ライフステージによって「何に幸せを感じるか」はコロコロと変わっていきます。

実際、内閣府の調査などを見ても、人々の幸福感(満足度)を構成する要素は家計、健康、人間関係、趣味など多岐にわたっており、誰にでも当てはまる「たった一つの正解」はないことがデータとしても示されています。
(参考:内閣府「満足度・生活の質に関する調査」

ここで、頭の中を整理するために「幸せ」と「不幸」の性質の違いを簡単な表で比較してみましょう。

比較項目幸せ(幸福)の性質不幸の性質
基準主観的(人によって基準が全く違う)客観的(誰が見ても辛い・苦しい状態)
変化流動的(年齢や気分で変わりやすい)共通的(時代や国を問わず、原因が似ている)
限界青天井(上を見始めるとキリがない)底がある(これ以上は落ちられない「どん底」がある)

このように、「幸せになろう!」という目標は、ゴールポストが常にフワフワと動いているようなものです。SNSなどで他人のキラキラした生活を見てしまうと、青天井の幸せを追い求めてしまい、かえって心身をすり減らしてしまうことすらあります。

では、どうすれば人生の難易度を下げて、心穏やかに生きることができるのでしょうか?

そこで提案したいのが、少し視点を変えることです。
人それぞれで定義が難しい「幸せ」を無理に追い求めるのは一旦お休みして、万国共通である「不幸の正体」を突き止め、それを徹底的に避けるというアプローチをとってみませんか。

逆転の発想:不幸のどん底(自殺の原因トップ3)から逆算する

前章で、「幸せ」の形は人それぞれで曖昧だとお伝えしました。では、その対極にある「不幸」はどうでしょうか。

少し重いテーマになりますが、人が「不幸のどん底」に陥り、自ら命を絶たざるを得ない状況に追い込まれる原因を見てみると、実は非常に明確な共通点が見えてきます。

厚生労働省や警察庁が毎年発表している統計データによると、その原因・動機は長年、以下の3つの要素に大きく集約されています。
(参考:厚生労働省「自殺の統計」

順位(目安)要因のカテゴリー具体的な内容の例
1位健康問題身体の病気、うつ病などのメンタルヘルス不調
2位経済・生活問題借金、生活苦、失業、事業の失敗など
3位家庭・人間関係問題家族間の不和、職場の人間関係の悩み、孤立など

※割合は年によって多少変動しますが、常にこの3つの問題が上位を独占しています。

いかがでしょうか。このデータが示しているのは、「健康」「お金」「人間関係」の3つのうち、いずれか(あるいは複数)が致命的に損なわれた時、人は耐え難い不幸を感じるという残酷な事実です。そしてこれは、日本に限らず世界共通の傾向と言えるでしょう。

「プラス」を求めるより、「マイナス」を徹底的に防ぐ

私たちが人生の難易度を劇的に下げるためのヒントが、まさにここにあります。

「どうすればもっと幸せになれるだろう?」と上を見て青天井の「プラス(幸福)」を探すのではなく、まずは「健康・お金・人間関係という3つの『マイナス(不幸)』にだけは絶対に陥らないように防御を固める」という、逆転の発想を持つのです。

投資やビジネスの世界では、失敗する要因をあらかじめ洗い出してそれを避ける「反転思考(インバージョン)」という考え方がありますが、これは人生そのものにも応用できます。

  • 暴飲暴食を避け、ウォーキングや水泳、サウナなどで心身の「健康」を整える。
  • 生活を破綻させないためのマネーリテラシーを持ち、「お金」の防衛線を張る。
  • 自分を消耗させるような、有害な「人間関係」からは距離を置く。

この3つの大穴さえ塞いでおけば、人生という船が「不幸」という海に沈むことはめったにありません。

「不幸を避けることが、概ね幸せな状態である」

一見すると消極的な考え方に聞こえるかもしれません。しかし、情報に溢れ、SNSで常に他人と比較させられる現代社会において、これこそが最も確実で再現性の高い「心穏やかに生きる戦略」だと私は考えています。

お金の本当の価値は「嫌な人間関係から逃げる権利」である

不幸の3大要因(健康・お金・人間関係)の中で、「健康」はある程度、自分の努力でコントロールが可能です。日々の食事に気を配り、適度な運動を取り入れ、睡眠をしっかりとることで、リスクを大きく減らすことができます。

しかし、「人間関係」だけは別です。
なぜなら、人間関係には必ず「相手」が存在するからです。

職場の理不尽な上司、価値観の合わない同僚、無理難題を押し付けてくる取引先……。どんなに自分が誠実に対応しても、相手の性格や行動を変えることはできません。自分一人では完結できないからこそ、人間関係は最も深く、複雑な悩みの種になりやすいのです。

ここで直面するのが、「環境を変える(=逃げる)」という選択肢です。
相手が変わらないのであれば、自分がその場から離れるのが一番の解決策です。しかし、多くの人が嫌な人間関係から逃げ出せずに心身をすり減らしてしまいます。その最大のストッパーとなっているのが、「お金の不安」です。

「ここを辞めたら、来月の生活費が払えない」
「家族を養っていくためには、この理不尽に耐えるしかない」

このように、経済的な余裕がない状態だと、私たちは無意識のうちに「嫌な人間関係に耐え続ける」という選択を強制されてしまうのです。

経済的な状態心の余裕嫌な環境に直面した時の選択肢
お金の不安がある
(生活が給与に完全依存)
常に焦りやプレッシャーがある「耐える」しかない
(辞めると生活が破綻するため)
お金のゆとりがある
(生活防衛資金や資産がある)
「いざとなれば辞められる」と思える「逃げる・選ぶ」ことができる
(自分から環境を変えられる)

お金を稼ぐこと、あるいは資産を増やすことの最大の目的は、高級車に乗ることでも、タワーマンションに住むことでもありません。

お金の本当の価値は、「自分の尊厳を傷つけるような嫌な人間関係から、いつでも逃げ出せる権利(パスポート)」を買えることにあるのです。

世界的ベストセラーとなったモーガン・ハウセル氏の著書『サイコロジー・オブ・マネー』(参考:ダイヤモンド社)でも、「お金がもたらす最大の価値は、自分の時間をコントロールできるようになることだ」と説かれています。これはまさに、誰と時間を過ごすかを自分で決められる自由を意味しています。

もし今、あなたが人間関係で深く悩んでいるのだとしたら、決して自分を責めないでください。それはあなたの心が弱いからではなく、いつでも逃げ出せるだけの「経済的な土台(防御力)」がまだ完成していないだけなのです。

お金という強力な盾を持てば、「どうしても辛くなったら、いつでも辞めてやる」と心の中で思えるようになります。この「いつでも降りられる」という安心感こそが、理不尽な社会を生き抜くための最強の精神安定剤になります。

お金がもたらす幸福度は、ある一定ラインで「飽和」する

「お金は嫌な人間関係から逃げるための最強のパスポートになる」とお伝えしました。生活防衛資金やある程度のまとまった資産があれば、理不尽な環境から自分を救い出すことができます。

この話を聞くと、「じゃあ、お金はあればあるほど幸せになれるんだ!」と焦ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ここでお伝えしたい大切な事実があります。
それは、「お金がもたらす幸福感には上限があり、ある一定のラインで『飽和』していく」ということです。

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏らの有名な研究によると、「感情的な幸福度は、年収が一定額(当時の研究で約7万5000ドル、日本円で800万円〜900万円程度)に達すると、それ以上は収入が増えても幸福度はほぼ頭打ちになる」とされています。
(参考:Proceedings of the National Academy of Sciences

※近年の研究ではさらに高年収まで幸福が伸びるという議論もありますが、「どこかで上がり幅が鈍くなる」という限界効用逓減の法則は広く支持されています。

フェーズ資産・収入の状態幸福度の上昇度合い実感する「幸せ」の質
第1段階貯金ゼロ → 生活防衛資金達成急上昇(劇的)明日の生活への「不安・恐怖」が消える
第2段階資産拡大期(数千万規模へ)緩やかに上昇選択肢が増え、「自由」を実感する
第3段階経済的自立(十分な資産形成後)ほぼ横ばい(飽和)資産額の増減で一喜一憂しなくなる

最も幸福度が「急上昇」するのは、第1段階です。
数ヶ月〜数年分の生活費が貯まった時、人は「これで明日食べるものには困らない」「嫌な仕事から逃げられる」という強烈な安心感を得ます。これがまさに、「不幸を避ける」ことができた瞬間です。

しかし、十分な資産基盤が整い、経済的な自立を果たした後はどうでしょうか。資産が5000万円から1億円に増えたとしても、幸福度が2倍になるわけではありません。「ランチで値段を見ずに注文できるようになった」という変化はありますが、それは人生の根本的な幸福度を劇的に押し上げるものではないのです。

私自身も、組織を離れて自分のペースで資産管理を行う生活へとシフトする中で、この「飽和」を強く実感しています。
生活の土台を固めてしまえば、それ以上に莫大なキャッシュフローを必死に追い求める必要性は薄れていきます。

お金は、雨風(=不幸)をしのぐための「強固な基礎と屋根」を作ってくれます。しかし、その家の中で毎日笑って過ごせるかどうかは、建物の大きさや豪華さとは別の問題なのです。

不幸を排除した後に待っている「自己成長」と「マインドフルネス」

お金によって「人間関係の不幸」を回避し、生活の基盤が整って幸福度が飽和したとき。そこには、とても静かで穏やかな世界が広がっています。

生存のためのプレッシャー(=マイナスの要因)が人生から消え去った後、不幸を排除した後にこそ、私たちは純粋な「自己成長」「マインドフルネス」の追求という、人生の新たなフェーズに入っていくのだと思います。

項目経済的不安がある時(生存・防衛のため)不幸を排除した後(自己成長・マインドフルネス)
学ぶ目的昇進、転職、収入を増やすため(損得勘定)純粋な知的好奇心、昨日の自分を超えるため
人間関係職場や取引先などの利害関係(我慢が必要)家族や、心から共感し合える人との穏やかな時間
時間の使い方タイムパフォマンス重視、タスクをこなす結果を急がず、プロセスそのものを楽しむ

損得勘定を捨てた「純粋な自己成長」の喜び

生活のための労働から解放されると、「お金になるかどうか」「誰かに評価されるかどうか」といった損得勘定を抜きにして、純粋に自分がやりたいこと、知りたいことに没頭できるようになります。

例えば私の場合、現在、税理士を目指して日商簿記1級の過去問と日々向き合っています。私が運営しているマイクロ法人の経理や経営管理という実務面だけを見れば、実は日商簿記3級程度の知識があれば十分です。それ以上の高度な知識が、今の生活に直結して莫大な利益をもたらすわけではありません。

それでもあえて難関資格の勉強を続けるのは、それが生存やお金のためではなく、純粋な「知的好奇心」と「自己成長」の追求だからです。わからない問題に頭を悩ませ、理解できた瞬間に喜びを感じる。これは結果や利益を求めない、純粋な大人のエンターテインメントなのです。

日常の「マインドフルネス」を味わう

そしてもう一つ、不幸を排除した後に訪れるのが「マインドフルネス(今、この瞬間に意識を向けること)」を深く味わえる状態です。

本当の幸せは、何百万円もする高級時計を買ったり、毎月海外旅行に行ったりするような「非日常」の中に探しに行く必要はありません。

  • 朝、澄んだ空気の中で行うウォーキング
  • プールで水の感覚に集中しながら泳ぐ時間
  • サウナでじっくりと汗を流し、深く呼吸をして心身を整える
  • 妻や成長していく二人の子どもたちと、食卓を囲んでたわいもない会話をする

お金の不安や人間関係のストレスで頭がいっぱいの時は、こうした「当たり前の日常」を味わう心の余裕が持てません。未来への不安や過去の後悔から解放され、「今、ここ」にある静かな喜びに100%集中できる状態。これこそが、マインドフルネスの究極の形だと感じています。

【アクションプラン】今日からできる「自分の人生の不幸リストラ」の手順

ここまで、「不幸(健康・お金・人間関係の問題)を避けること」が、いかに人生の難易度を下げてくれるかをお話ししてきました。

「いつかお金持ちになって幸せになりたい」という漠然とした夢を追うよりも、「今日、自分の周りにある小さな不幸の芽を摘む」ことの方が、はるかに現実的で効果的です。最後に、今すぐ始められる「不幸リストラ(排除)」のための具体的なアクションプランを4つのステップでご紹介します。無理のない範囲で、一つでも行動に移してみてください。

ステップ1:自分の「逃げ切りライン(生活防衛資金)」を計算する

自分が月にいくらあれば最低限生きていけるのか、その数字を正確に出してみましょう。
【やること】 家賃、食費、光熱費など、「最低限必要な1ヶ月の生活費」を計算し、その半年〜1年分を「生活防衛資金」として目標設定する。この金額が明確になるだけで、「これだけ貯まれば、いつでも嫌な環境から逃げられる」という具体的な希望に変わります。

ステップ2:防御力を高める「お金の基礎知識」をインストールする

見えない不安は、知識不足からやってきます。税金で損をしないため、あるいは無駄な支出を減らすためには、自衛のためのマネーリテラシーが必須です。
【やること】 簿記3級のテキストを一冊読んでみる、または基礎的なお金の仕組みを学ぶ。事業を興す場合でも、簿記3級程度の知識があればお金の流れは十分に把握できます。まずはこの基礎を押さえることが、最強の盾になります。

ステップ3:心身を整える「小さな健康習慣」を始める

お金があっても、健康を損なえばすべてが台無しになります。「健康」という不幸の要因を潰すためには、日々のメンテナンスしかありません。
【やること】 1日15分のウォーキング、休日の水泳、あるいはサウナで汗を流すなど、自分が心地よいと感じる運動・リフレッシュ習慣をスケジュールに組み込む。「今、ここ」の身体の感覚に集中する時間がメンタル不調を防ぎます。

ステップ4:「やめる・離れる」人間関係を一つ決める

お金の目処が立ち、心身が整ってきたら、いよいよ自分をすり減らす人間関係のリストラを実行します。
【やること】 行きたくない飲み会の誘いを一度断る、SNSで疲れる相手のフォローを外す、愚痴ばかり言う人から物理的に距離を置く。まずは「小さなノー」を突きつける練習をして、自分の時間を自分と家族の手に取り戻してください。


「幸せ」は、外から誰かが運んでくるものでも、お金で直接買えるものでもありません。
それは、健康とお金の不安をなくし、嫌な人間関係という重荷を下ろした後に、自然と湧き上がってくるものです。

無駄な不幸をリストラし、身軽になったあなたには、きっと「純粋な好奇心」と「今を楽しむ余裕」が残るはずです。人生の難易度は、自分の手で下げることができます。今日から少しずつ、あなた自身の人生のコントロールを取り戻していきましょう。

「聴くブログ」としても配信中

この記事の内容は、YouTubeチャンネルでも音声解説として公開しています。ブログでは書ききれなかった裏話や、私自身の率直な所感も交えてお話ししています。ラジオ感覚でぜひお楽しみください。

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