はじめに:あなたの戦っているゲームの「勝利条件」は何ですか?
「毎日必死に働いているのに、なぜか手応えが得られない」
「周りと同じように努力しているはずなのに、自分だけ空回りしている気がする」
もしあなたが今、仕事や人生においてそんな閉塞感を感じているのなら、自分自身の能力の不足を疑う前に確認すべきことがあります。それは、「今自分がプレイしているゲームの勝利条件を本当に理解しているか?」ということです。

世の中の仕事や活動には、大きく分けて2つの性質のゲームが存在します。投資の世界で有名なチャールズ・エリス氏が提唱した「勝者のゲーム」と「敗者のゲーム」という概念です。
| 特徴 | 勝者のゲーム(加点方式) | 敗者のゲーム(減点方式) |
|---|---|---|
| 勝利条件 | 優れた一手を打つ、高いスキルで圧倒する | ミスを最小限に抑える、無難に完走する |
| 評価の基準 | どれだけプラスを作ったか(創造性) | どれだけマイナスを出さなかったか(正確性) |
| 主な例 | 研究職、起業、クリエイティブ職 | 大企業の組織業務、インフラ管理、インデックス投資 |
この2つの概念において「勝者」「敗者」というのは、勝ち組・負け組という意味ではありません。ゲームの「得点ルール(加点方式か、減点方式か)」を指しています。
多くの人がキャリアにおいて陥る最大の罠は、「敗者のゲーム(減点されないことが重要な場)」において、「勝者のゲーム(リスクを取って加点を狙う)」の戦い方をしてしまうことです。あるいはその逆も然りです。
まずは、自分が立っているフィールドがどちらのルールで動いているのか。それを理解することが、戦略的な人生を送るための第一歩となります。

参考リソース:
チャールズ・エリス著『敗者のゲーム』(日本経済新聞出版)
※投資のバイブルですが、キャリア戦略やビジネスのルールを理解する上でも非常に示唆に富む一冊です。
KOF20人抜き!格ゲー全盛期に学んだ「上達の最短ルート」
私がこの「ゲームの勝利条件」と「上達の法則」を骨身に染みて理解したのは、高校時代のゲームセンターでした。
時は1990年代後半。カプコンの『ストリートファイター』やSNKの『ザ・キング・オブ・ファイターズ(KOF)』といった格闘ゲームが社会現象となっていた全盛期です。私は熱狂的なSNK派で、学校帰りに毎日友達とゲームセンターへ通い詰め、対戦ゲームで最大20人抜きを達成したこともあります。
周りがPS派でもNEOGEO CDに5万円投資した高校時代
当時の家庭用ゲーム機の主流は、初代PlayStation(PS1)やセガサターンでした。しかし、私はあえてマニアックで高価な「NEOGEO CD」というゲーム機を選びました。
本体価格は約5万円。高校生にとっては、現在の価値に換算すれば数十万円の投資に匹敵する大金です。なぜそこまでしたのか。それは、「家でもゲームセンターの実戦さながらの予習・復習ができる環境」を整えることが、勝利への最短ルートだと確信していたからです。
NEOGEO CDはロード時間が非常に長いことで有名でしたが、業務用と全く同じ感覚でコンボ(連続技)の練習ができる環境は、当時の私にとって圧倒的なアドバンテージとなりました。
上達の極意は「トッププレイヤーの徹底的なモデリング」
格闘ゲームという「勝者のゲーム(高い技術と攻めで相手を圧倒する場)」において、私が学んだ最強の上達法は、「上達者がやっていることをそのまま真似ること」でした。いわゆる「モデリング」です。
- 観察: 20人抜きをするような強者の立ち回り、ボタンを押すタイミングを背後から徹底的に見る。
- 仮説: 「なぜ今のタイミングでガードしたのか?」「なぜこの技を選んだのか?」を分析する。
- 再現: 家に帰り、NEOGEO CDを使ってその動きを無意識にできるまで反復練習する。
- 検証: 翌日、ゲームセンターの実戦で試し、自分の血肉にする。
この「上達者がやっていることを真似るのが一番手っ取り早い」という法則は、その後の私のキャリアにおいて、大きな武器となりました。
しかし、フィールドが変われば、模倣すべき「上達者」の定義も、守るべき「ルール」もガラリと変わることに、私は社会人になってから気づくことになります。

人生における「2つのゲーム」の実体験
格闘ゲームで身につけた「トッププレイヤーの徹底的なモデリング」。この成功法則は、学生時代から修士、博士、そしてポスドク(博士研究員)に至るまでの研究者生活でも、見事に通用しました。
しかし、社会人として企業に就職した途端、この法則だけでは太刀打ちできない「全く別のゲーム」が始まりました。
【勝者のゲーム】加点方式で攻める「研究者(ポスドク)」時代
研究室という環境は、まさに「勝者のゲーム(加点方式)」の典型でした。
研究の世界における勝利条件は、画期的なデータを見つけ出し、質の高い論文を書き、学会で発表することです。実験で何度失敗しようが、最終的に1つの大きな成果(ホームラン)を出せば、それまでの失敗はすべて「価値ある試行錯誤」としてプラスに転じます。
ここでの上達者(トッププレイヤー)は、高い評価を得ている研究者の先輩たちでした。
彼らは、斬新なアイデアを次々と生み出し、寝る間を惜しんで実験を繰り返し、素晴らしい成果を上げていました。私は格闘ゲームの時と同じように、「成果を出している先輩の行動パターンを徹底的に真似る」というアプローチをとりました。
仮説の立て方、実験の回し方、論文の構成。彼らに倣って行動した結果、私自身も良いデータを得ることができ、周囲に認めてもらうことができました。

【敗者のゲーム】減点方式でミスを防ぐ「組織・会社員」時代
しかし、ポスドクを経て民間企業の半導体エンジニアへと転職した時、私は強烈な違和感を覚えました。「今までと同じ戦い方(勝者のゲーム)ではうまくいかない」と痛感したのです。
半導体のような大規模な製造業において、組織で仕事を進める環境は、典型的な「敗者のゲーム(減点方式)」でした。
| 項目 | 研究者(勝者のゲーム) | 会社員・製造業(敗者のゲーム) |
|---|---|---|
| プレイスタイル | ソロプレイ(個人の裁量大) | チームプレイ(他部署連携必須) |
| 失敗の影響範囲 | 個人の失敗で止まる | 組織全体の致命傷になる |
| 求められる行動 | ホームランを狙う | エラーを確実に出さない |
| 評価される人材 | 突出したアイデアと行動力 | 規則を守り、無難に完遂する力 |

研究者時代は、教授のアドバイスこそあるものの、基本的には「ソロプレイ」です。自分の実験が失敗しても、自分個人の時間が失われるだけで済みます。
しかし、組織での仕事はそうはいきません。半導体製造のような巨額の資本が動く現場では、個人の「ちょっとした思いつきの実験」や「ミス」が、ライン停止や巨額の損失に直結します。
つまり、会社員としての仕事は「いかにミスを防ぎ、組織の歯車として正確に機能するか」が勝利条件だったのです。画期的なアイデアで100点を取るよりも、絶対に赤点(致命的なミス)を取らず、常に80点をキープし続けることが評価される世界でした。

「仕事ができる・できない」は能力ではなく「相性」である
会社員という環境が「減点方式の敗者のゲーム」であると気づいたとき、私はもう一度、上達者のモデリングを試みようとしました。
会社組織における上達者とは、役職を得ている課長や部長クラスの人たちです。彼らをよく観察しているうちに、私はある重要な事実に気がつきました。

優秀な管理職がやっていた、モチベーションと無難さの両立
会社組織で評価され、勝ち上がっていく人たち(敗者のゲームのマスターたち)は、一体どのようなプレイをしているのか?
彼らの最大の凄さは、「モチベーションの高さ」と「無難さ(ミスのなさ)」を完璧に両立させていることでした。
組織で働いていると、必ず「本人はやりたくないだろうな」と思うような、会社都合の業務が回ってきます。評価の高い人たちは、そうした気の乗らない仕事であっても、決して腐ることなく高いモチベーションを維持して取り組みます。
そして何より素晴らしいのは、ミスなく無難に「最適な落とし所」を見つけて仕事を進めるスキルです。
尖ったアイデアで波風を立てるのではなく、他部署との摩擦を避け、関係者全員が納得する安全なルートを確実に見つけ出す。これこそが「敗者のゲーム」における最強のプレイスキルでした。

会社員になって2〜3年で気づいた「ゲームとの不一致」
彼らの見事なプレイを目の当たりにしたとき、私は直感しました。
「あ、このゲームは自分には向いていないな」と。会社員になって、まだ2〜3年目のことでした。
20代の昔の私は、「能力が高い人は仕事ができ、能力が低い人は仕事ができない」という、単純なスペックによる絶対評価を信じていました。しかし、異なるゲーム(研究職と会社員)を経験したことで、その認識は180度変わりました。
仕事ができる・できないというのは、単なる個人の能力の差ではありません。「自分が持っている特性」と「その環境(ゲームのルール)が求めている勝利条件」との【相性】の問題だったのです。
どんなに格闘ゲームのコンボ入力が早くても、パズルゲームのルールでは勝てません。それと同じで、画期的なアイデアを出すのが得意な人が、ミスのなさを求められる製造ラインの管理で輝くのは非常に難しいのです。
結局、私は「会社員」という生き方、つまり敗者のゲームが根本的に合わなかったのです。

アーリーリタイア後の現在の「ゲーム戦略」
会社員というゲームが自分の性格には合わないと悟った私は、最終的に組織を離れる決断をしました。現在私はアーリーリタイア生活を送りながら、自ら設立したマイクロ法人(資産管理会社)を運営しています。
では、今の私がどのように「人生のゲーム」をプレイしているのか。結論から言うと、分野によって「勝者のゲーム」と「敗者のゲーム」を明確に使い分けています。

ビジネス(ブログ等)は「勝者のゲーム」として攻める
現在私が取り組んでいるブログ運営(マイクロ法人化のノウハウ発信など)や、せどりといったビジネスは、完全に「勝者のゲーム」としてプレイしています。
これらは、かつての研究者時代と同じ「加点方式」の世界です。
記事を書いてアクセスが集まらなくても、誰かに怒られたり会社に大損害を与えたりすることはありません(ソロプレイの特権です)。むしろ、色々なアイデアを試行錯誤し、1つでもヒットが生まれれば、それが大きなプラスとなって積み上がっていきます。
自分のペースで仮説と検証を繰り返し、成果を取りに行く。私にとっては、この「勝者のゲーム」こそが、本来の能力を発揮できる心地よい戦場なのです。

株式投資は「敗者のゲーム」として淡々と守る
一方で、資産運用の要である「株式投資」に関しては、徹底して「敗者のゲーム」のルールに従っています。
チャールズ・エリスも著書で指摘している通り、投資の世界では「市場の平均を上回る素晴らしい銘柄を見つけよう(勝者のゲーム)」と色気を出した瞬間に、余計な取引コストやリスクを抱え込み、結果的に負けてしまうことが多々あります。
私の投資スタイルは、基本的には「ポートフォリオの維持に努め、何もしない(ミスをしない)」ことです。
相場が暴落してパニック売りをしてしまうような「致命的なミス(減点)」を避け、ただ淡々とインデックスやポートフォリオを維持し続ける。余計な手を加えないからこそ手も掛からず、精神的な余裕を持ったまま資産を管理できています。

まとめ:自分の性格に合った戦場(ゲーム)を選ぼう

KOFの20人抜きに熱中した高校時代から始まり、研究者、半導体エンジニア、そして現在のアーリーリタイア生活に至るまで。振り返ってみれば、私の人生は常に「このゲームの勝利条件は何か?」を問い続ける道のりでした。
読者の皆さんに、最後にお伝えしたいことがあります。
ぜひ、「今自分がやっている仕事(ゲーム)は、勝者のゲームか? それとも敗者のゲームか?」を見極めてみてください。
- 新しいアイデアや挑戦が評価される環境ですか?(勝者のゲーム)
- ルールを遵守し、ミスなく無難に遂行することが求められる環境ですか?(敗者のゲーム)
そして、そのゲームのルールは「自分の性格に合っているか」を自問自答してみてください。
「仕事がうまくいかない」「毎日が辛い」と感じているなら、それはあなたの能力が低いからではありません。単に、自分の得意なプレイスタイルと、今の環境が求めているゲームのルールがミスマッチを起こしているだけなのです。
人生の限られた時間を、相性の悪いゲームで消耗する必要はありません。
ルールの違いを知り、自分の強みが最も活きる「戦場」を戦略的に選ぶこと。それこそが、人生という最大のゲームを攻略するための、一番の近道だと私は信じています。


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